認知症は,神経細胞のアポトーシスを特徴とする進行性の神経疾患であり,これらの細胞死を抑制することが治療上大きな意味をなしている。この病態を反映する”繰り返し脳虚血モデル,,(9)を用い、冠元穎粒の影響を検討した。
その結果、冠元穎粒による血管性認知症に対する改善効果は空間記憶障害および海馬神経細胞傷害の改善作用によるものであると推測された。冠元穎粒は血管性認知症モデルラットにおいて、虚血前処置でも後処置においても、記憶障害を改善したが前処置において明らかだった。以上の結果が、冠元穎粒は血管性認知症の予防に有用であると考えられる。
また、冠元穎粒による細胞傷害保護効果は、細胞傷害に関与するNMDAおよびAMPA受容体の阻害およびDPPHラジカルの消去作用によるものと推測された(図12)。繰り返し虚血モデルにおけるアボトーシスの機序には,グルタミン酸の過剰遊離後のグルタミン酸受容体であるAMPA受容体サブユニットのGluR2の変性が重要であることが明らかにされている(BrainRes995,131-139’7)。
NMDA受容体のアンタゴニストは繰り返し脳虚血による空間記憶障害を抑制しないが、AMPA受容体のアンタゴニストは記憶障害に改善する。脳虚血はGluR2のアルギニンをグルタミンに変化させて細胞内へのカルシウム流入を促進し、アポトーシスを誘導する(‘8)。このことから、繰り返し脳虚血による冠元穎粒の細胞保護効果はAMPA受容体を介しているのかもしれない。
さらに結果には示していないが、冠元穎粒は正常マウスにおけるプロトロンビン時間を延長した。血小板凝集による血液の粘度上昇は、慢性的な脳循環障害、脳血流量の低下の原因となる。このことから、冠元穎粒による抗血小板凝集作用抑制もまた細胞保護効果の機序のひとつであると考えられる。

図12.冠元穎粒の空間記憶障害の改善作用および神経細胞保護作用の機序(仮説)
冠元顆粒薬理解説「2-4 まとめ」01